仙台出張で出会った、真剣に遊ぶ大人達

第二弾

お仕事人生”第二弾の幕開け”

約1年の産休があけた。私のお仕事人生”第二弾の幕開け”といった感じだ。色に例えると、スカイブルー。この1年で最後に残った最も大切なことは『心の声に素直に生きること。』今までより一層ね。親に「言われたこと」よりも親が「していた」ことの方がむしろ受け継いでる・・そう気付いたあの日を境に、元あった価値観は決心に変わった。

『良いチームをつくりたい。』色々考えたけど、それが私のいちばん素直な欲求なんだ。お客さんに豊かな体験をお届けできるのは、義務感でなく探究心から生まれる仕事だけ。そう思えてならないんだよ。『良い仕事ができるチーム』を、もっと増やしたいんだ。

・・澄んだ空が、数日で墨色に変わった。久々の商談で出会う大人たちに、肩透かしを食らう。契約がゴールの心ない常套句。調子だけ合わせた薄っぺらいオーバーリアクション。「何が面白くて生きてんだろう。」退屈で、寂しかった。もっとも、どんな大人と出会えるかも、己の力量次第だけどさ。

みんな、どこにいる?

私が焦がれるのは『生まれっぱなしで成長してきたような大人』だ。かつて石原慎太郎が岡本太郎のことをそう言い当て、こう続けた。「人間は全てうまれた時は当人そのものでしかないのに、その後の教育が並の人間に変えてしまう。」・・・思わず唸った。でもきっと誰もがこっそり願ってる。「もっと自分を解放して生きたい」と。

「みんな、どこにいる?」

近くの席のおやまんが、いやに嬉しそうに伸びをしている。河北新報さん主催の採用広報セミナーが決まったらしい。故郷で開催が叶うんだ。喜びもひとしおだよな。聞くと株式会社タゼン(銅事業、住宅設備・リフォーム事業)が参画するという。創業428年、19代目だと。「いるかもしれない。」直感した。気になり情報を漁る中、現代表の就任挨拶のところで私の目はピタッと吸い寄せられるように留まった。「銅の本質は伝導。銅を師と仰ぎ、時から学び、真善美を実践して参ります。」言葉の濃度に面食らう。さらに合言葉で大ファンになった。<使う身になってやり抜こう!>・・・か〜っくい〜なあちくしょう!

時を同じくして、水面下で動いていることがあった。自分たちの琴線に触れたチームを、「仕事っておもしろい」を脈々と継承するチームを、見つけ、会って浴び、世の中にお届けしたい。その想いで『むかしむかし』を立ち上げたんだ。「ここが1社目になるかもしれない。」興奮し誠吾さんに駆け寄ると、一言「行ってきな」って。うちの社長、ここぞという時は絶対に、背中を押してくれるんだ。

真剣に遊ぶ大人たち

(株)タゼン 櫻井さん「極めんとすると、銅に行き着く。」

きっかけを作ってくれたオヤマン、新メンバーのミノリンと3人で仙台は青葉区へ向かう。最初のお目当ては(株)タゼンで開いている盃作りのワークショップ。担当してくれたのは新卒入社の御銅師、櫻井さん。まあるいクラシカルなメガネに銅の文様をあしらった臙脂色の法被がベストマッチ。櫻井さんの話は、すごく面白かった。

「銅は金属の中で一番柔らかい。表現が自在。だから料理人さんとか職人さんが技を極めようと思うと、道具は銅に行き着く。僕はそう思ってます。」銅への誇りを語る。「ただ他の道具より優れているのかというと、そういう話ではない。例えば土鍋は、保温性に長ける。だからお米が美味しく炊けるのは土鍋。結局は理解次第ですね。」自分の本丸だけでなく、他のものへの敬意まで添える。その姿勢がまさにクラフトマンだ。

「極めんとすると、銅に行き着く。」手元のメモに、そう書き留めた。

おでん こうぞうさん「じゃあ、とっくりはこれがいい。」

その夜、櫻井さんの紹介で「おでん こうぞう」に行った。ここでの一杯が格別だった。 大きな銅鍋がドーンドーンと2つ。店中がお出汁の良いにおいで満たされている。「タゼンさんで盃をつくってきたんです。これで乾杯してもいいですか?」と聞くと、スタッフみんな寄ってきて、出来立てホヤホヤの盃を覗き込みながら「良いなあ、上手だなあ。良いなあ、作りたいなあ。」と興味津々。

「とっくりはこれがいいですね。」と、メイドインタゼンのとっくりに地酒を入れてもってきてくれた。おでんもつまみも、さりげなく一人ぶんずつ、美しく取り分けてくれる。良いチームの周りには、良いお客さんがいるんだな。そのお陰で我々は、こんなに幸せな体験ができるんだ。

ブリック 加藤さん「服は売らないの。会話をするの」

1980年創業の紳士服店「BRICK」も、この旅で行きたかった場所だ。タゼンから歩くこと3分。グリーンストライプの屋根が太陽に映え、褐色のレンガの壁にアイビーがつたう。大きなエンブレムの旗で、一目でそこがブリックだと分かる。オーナーの加藤さんは、創業以来45年以上、父の服を仕立ててくれている。

「なーに!コーヒー、飲んでいく?」加藤さんは驚きながら、腰掛け椅子をさっと3つ出してくれた。寡黙で恥ずかしがり屋だけど、歓迎してくれるのが所作で伝わる。

「そうだ僕、誰にも言ってないことがあったよ。僕がテーラー始めたの、あなたのお父さんがきっかけだよ。」・・・話はこうだ。50年程前、横浜の紳士服店で働いていた頃。その店のファン顧客だったのが父。ある時、工務店を営む父の実家が、創業記念に家族分のブレザーの仕立てをお願いした。当時担当に抜擢されたのが、加藤さん。本当に大変だったけど、顧客に寄り添う仕立ての面白さに魅せられたと。

「僕は、服は売らないの。だって大事なのは服そのものより”スタイル”でしょ。その人らしい”着方”ね。だから会話をするの。話さないと、その人のことがわからないでしょ。そうじゃなかったら、自動販売機でいいよ。」

(株)タゼン 善社長「銅の友達を増やすんだ」

旅の最後。実際にお会いした善社長は、柔らかな気骨をまとう、粋な大人だった。「昔ね、銅製品を持って海外に売りに行ったんですよ。ヘルシンキに。1日8時間、誰も立ち止まってくれず、誰も振り返ってくれず、ってのが3日間。ご飯も食べる気がしなくなって、風邪もひきそうで、一人ぼっちで、つらくてつらくて。金も注ぎ込んで来たのに、自分は何やってんだろうって。それで、もういいや、“売るのはやめよう。友達を作ろう”って思ったんです。そしたら一つ売れたんですよ。そこからかな。自分は、銅の友達を増やすんだって、思いましたよ。開き直ったというのかもしれないな。」善社長は、過去の自分に愛着を込めるように、笑いながら話してくれた。私もこんな風に、歳を重ねたいと思った。

「僕ね、努力することも協力することも喜んでもらえることも大好きなんですよ。社員は弟子であり、友達であり、仲間なんですよ。僕の人生を豊かにしてくれる、仲間なんですよ。」

・・・気づけば私、ごうごう泣いてた。

とっておきの物語

胸がいっぱいで落ち着かない。込み上げる感情を誰かと分かち合いたいのに、ことばに詰まる。受け取ったものがはっきり分かったのは、それから数日後のことだった。

『夢中でこだわった仕事で、喜んでくれるのが、嬉しい。』

私の好きな人は、みーんな、同じことを言っていた。違う人、違う分野、違う話の真ん中は、ぜーんぶ、同じだった。自分の心を起点に、豊かなつながりが広がる世界。私が渇望する、インサイドアウトなつながりの世界を、確かに実感したんだ。

「生命力に満ち満ちた世界を体現している限り、人が花に、人に、馬にそれを見出そうと、そこに大した違いはありません。」 芸術家のミロはこう表現したが、今回の旅でそれは、銅であり、食であり、服だった。この世は、私が知らないとっておきの物語で溢れている。

本来一体であるはずの商売と道徳。両者の溝が深まるこの世界で、これから先もきっと、やるせなくなる日がくるだろう。その時はまた、ここに立ち戻ろう。単なる消費欲ではない、本質的な価値の希求。真の商人のあるべき姿を、この旅から見出そう。ディープで、フリークな大人達のいる世界は、やっぱり最高にドラマチックだ。・・・曇り空が、東雲色の朝焼けに染まった。

あの旅の帰り。日下さんは気を遣って新幹線の席をバラバラに取ってくれてたけど、1本遅らせた自由席で、3人並んで帰ったんだ。 旅で出会った大人達の話をつまみに、笑って、泣いて、くたくたになった。私もこの仲間たちと、良い仕事をするチームをつくろう。スカイブルー、ただいま。

おまけ

旅の余韻の中でふと思う。「極めんとすると銅にいきつく」・・・銅とことばは似ているな。と思った。この旅で出会った大人は皆、自分のことばを持っていた。こだわり抜けば、常套句だと間に合わない。善社長の言っていた『銅は人に何か伝えることにも長けている』って、そういうことだったりして。

この記事を書いた人

貞光 智菜

取締役/CHRO
戦略人事・総務本部 火起屋

貞光 智菜

人生のキーワードは「インサイドアウト」。「100億円ではなく100年以上続く会社を作る」というキャッチコピーに惹かれ、2015年に新卒入社。
広報・営業を経て、2019年に最年少で戦略人事取締役就任。会社でいえば理念・ビジョン、個人で言えば信念・夢をブラさずに、そこに共感しあえる人のつながりを増やしたい。1児のママ。