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ピンでは絶対に、オルタナティブには辿り着けない。

インビジョン入社前の経歴

理屈より好奇心。校庭に猿が出たら、そりゃあに見に行くでしょ?

“小学生の時、校庭に猿が出た。
校内放送で「教室から出ないでください」と流れたが、そりゃあ見に行くでしょ。当たり前だ。他の生徒が誰もいない校庭のど真ん中に、僕ら兄弟3人だけが集結していた。
当然、母親にはめちゃくちゃ怒られた。
「行くな」と言われると、余計に行きたくなる。ルールや理屈よりも、湧き上がる好奇心がいつだって勝つ。得体の知れないもの、面白そうなもの。
誰かが用意した正解じゃなく、自分の目で見て、触れて、確かめないと絶対に気が済まない。

かつて僕は、東京消防庁で消防士をしていた。
入庁した理由はただ一つ、兄たちが公務員だったからだ。幼少期から柔道を始めたのも同じ理由。
神奈川の強豪校の理不尽なヒエラルキーすら何の疑いもなく受け入れ、ただその状況を楽しんでいた。
先輩のシャワータイム中に新人が話し相手になる「ガーディアン」という謎の役割さえも。

誰かに「敷かれたレール」だなんて思ったこともない。兄たちと同じ職に就くことに、微塵も疑いを抱いていなかった。
僕の好奇心の先にはいつも兄たちがいて、その背中を無邪気に追いかけていればそれでよかった。
自分がどんな人生を送るかなんて、深く考えたこともなかった。

だが、自分の意志で公務員という道を選び、人生を謳歌している兄たちに対し、僕は現状にどこか満足しきれずにいた。
「どんな服がイケてるか」「俺がこんなヤバい音楽を見つけてきた」「あのコーヒースタンドの空間がかっこいい」。
地元の仲間たちとわちゃわちゃやりながら、カルチャーの匂いに無性に惹かれ始めた頃だ。
誰かの真似じゃない、自分の足でディグる面白さを知った時、僕の好奇心のベクトルは、兄たちの背中から少しずつズレ始めていた。

そんな折、コロナ禍がやってきた。
同年代の若者がバンバン自ら命を絶つ現場に何度も立ち会った。
自分で飛び降りた人間が、僕の胸ぐらを掴んで「助けてくれ」と言う。「自分で跳んだじゃん」と思った。同情とかは正直全くなかった。

だが、死の淵にいる姿を目の前にした時、強烈に死生観のようなものが芽生えた気がする。
「明日は我が身だな」と、本気で思った。
何の疑いもなく強豪校で柔道をやり、そのまま消防士になった自分。
もし明日が無かったとして、それは「本当の自分」として生きた結果だと言えるのか。
自分の頭で考え、自分の意志で選んだ人生を生きていないのなら。

行き場のない死生観と色んな感情で爆発しそうになった僕は、スマホを家に置き、カメラだけを引っ提げて一人で海外へ飛んだ。
そこで見た景色、肌で感じた空気は一生忘れられない。野犬に追いかけられたり、空港で枕にしてたバックパック盗られそうになったり。
スマホもなくホテルの場所が分からない僕を、黒塗りの怪しい車でホテル先まで送ってくれた青年だったり。
常識から切り離され、カメラ越しに世界を感じた時、僕の脳内は完全に「校庭の猿を見に行ったあの小学生」に戻っていた。ありのままの、剥き出しの好奇心。
やっぱこうゆうのだよねって思った。

誤解しないでほしいが、消防士という仕事は今でも僕にとって一番かっこいい職業だと思っている。ただ、僕が生きるべき場所はそこじゃなかったというだけ。
そうして僕は消防士を辞め、フォトグラファー、映像クリエイターとしてキャリアをスタートした。

フリーになって行き着いたのは、アパレルや音楽業界、エンタメの「綺麗に整備された世界」。
個人のクリエイターとしてそこそこ評価もされたし、まあまあ生きれた。
だが、そこは徹底的にノイズを消し、見せたいものだけを綺麗にパッケージングする世界だった。作り込まれた美しさはあっても、そこに生々しい人間の姿や、腹の底から共感できるようなリアルはなかった。自分の好奇心が反応しないものを撮り続ける日々は、どこか空っぽだった。完全に「個」で製作してたし、共創する相手もいなかった。

そこに追い打ちをかけるように、現実は容赦なくやってくる。
守るべき家族ができた矢先に仕事が止まり、貯金は3万円を切った。
食いつなぐために、毎日軽バンに乗って荷物を配達した。
車内の中で、「俺のキャリアも、まあこんなもんか」と、割と本気で諦めかけていた。”

インビジョンに入社した理由

「恩を返したい」と心底思える大人たち。一緒に仕事しない理由が、どこにある?

首の皮一枚で繋がっていた僕に、手を差し伸べてくれたのは消防時代の先輩だった大地さん。現・インビジョンの執行役員だ。
動画制作の仕事を回してくれた。
それから1年間、僕は配達の合間に軽バンの中で必死に映像を編集し続けた。どんな仕事でもやる。這い上がらなきゃいけない。

そして2025年1月。制作案件が止まり、また収入が尽きかけた時。僕は喫煙所で、誠吾さんにすがりついた。「なんでもいい、仕事をください」と。
「じゃあ、企画考えてよ」。誠吾さんは笑いながら言った。

その言葉を聞いたのが金曜日。ところが2日後の日曜日、誠吾さんから突然「働くドキュメンタリー」14本構成の企画書が送られてきた。
「企画考えてよ」と言い放ったその裏で、僕のために企画書を練って送ってくれたのだ。
粋な贈り物だ。本当にありがとうございます。

綺麗な虚像はもううんざりだった。泥臭くて、不格好で、だけど圧倒的に「リアル」で愛おしくすら思える人間のありのままを撮りたかった。
僕の好奇心が、これ以上ないほど掻き立てられる。
あの時のヒリつくような熱と恩義は、今でも鮮明に僕の血肉になっている。

こんな大人たちと一緒に仕事しない理由が、どこにある?
この泥臭い現実にワクワクしない理由なんて、一つもないでしょ。

入社後の光と影

幸福が現実になるのは、それを誰かと分かち合った時だ。

インビジョンという会社は、突拍子もないことを、大の大人たちが大真面目に企んでいる。「え、こんな仕事していいの?」と拍子抜けしたこともある。まるで遊んでいるかのようだ。いや、狂気じみたほど本気で遊んでいる。
ただの「遊び」なんかじゃ絶対に経験できないような冒険が、ここでの「仕事」にはある。

だが、僕の根っこにこびりついた「個」の癖は、そう簡単には抜けない。
柔道もカメラも、僕はずっと「個」の力だけで戦ってきた。だからインビジョンの仕事に入ってからも、無意識のうちに一人で考え、自分だけの判断で仕事を進めようとしてしまう。自分一人で完結させた方が手っ取り早いし、楽だから。

一人で作る制作物は、過去にやってきた「綺麗にパッケージングされた物」と根質的に同じだ。たった一つの脳みそで完結した世界には、予定調和しかない。他者の介入がないから、そこには想定外のノイズもなければ、腹の底から揺さぶられるような共感も生まれない。

ピンでは絶対に、オルタナティブには辿り着けない。

チームでプロセスを踏み、それぞれの役割やテリトリーを土足で越境して、ひとつの作品を作り上げていく。
自分とは違う脳みそと乱取りして、お互いにリスペクトを持ちながら、ぐちゃぐちゃになって混ぜ合わせる。自分だけの意思決定を手放した先に初めて、誰も想像していなかった「オルタナティブ」なものが出来上がる。

一人で作るより、ずっと難しいし、ずっとめんどくさい。だけど、圧倒的に楽しい。
ノイズを消して一人で整えた過去の映像は、明日には消費されて消える。でも、泥臭くチームで生み出したオルタナティブだけは、きっと後世に残っていく。

エネルギーの源泉

Memento vivere

「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」
「生きることを忘れるな」

かつての僕と同じように、どこか満たされない状況で立ち尽くしている仲間がまだいる。地元の仲間だったり、後輩だったり。
どん底にいた僕に手を差し伸べてくれたあの大人たちのように、今度は僕が、誰かの支えになれるような大人でありたい。僕があの時救われたように、今度は僕が、誰かの人生をひっくり返すような粋な企画書を贈りたい。
そんな自分のクリエイティブが、少しでも誰かの支えになっていたら、次の行動を起こすきっかけになっていたら。それほどヤバくて最高なことはない。
気ままに肩の力を抜いて、一生仕事で遊んで、死ぬ。
自分の家族、子供たちもそうあって欲しいと思う。
それが僕の軸で、すべての行動の源泉だ。

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